週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。
内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。

　年末、スポーツ紙を開いて景気のいい話に目を疑った人も多かったろう。“伊沢利光、年間2億で3年契約”の見出しが躍ったからだ。内容は今年1月1日から年間1億円プラス出来高で約2億円。3年で計6億円の契約（金額はいずれも推定）というこの御時世においては超破格のもの。金額面での真否はともかくマスターズで日本人最高の4位となり、そのスウィングがアーノルド・パーマーに絶賛された。加えて国内5勝を挙げて賞金王となった昨年の実績がズバ抜けているとはいえ、史上最高のこの契約に仰天したのは業界人ばかりではなかったはずだ。

　その一方では、昨年まで同社とクラブ契約をしていた横尾要がフリーになったことも報じられた。こちらは伊沢ほどの活躍はないものの、米ツアーに常駐、参戦1年目ながら賞金ランク105位で今年のシード権を獲得。再び米国に乗り込むという実績を残しながらの出来事だった。

　また、伊沢とは対照的に一昨年に賞金王、昨年2位の片山晋呉は、ダンロップとの用具契約でモメている（1月17日現在）。しかもそれについて不満をぶちまけたことが新年早々スポーツ各紙に大きく掲載されてしまった。実はこれには後日談がある。そのままダンロップとの契約も破談になるかと思われたのだが、直後に片山自身が同社と連絡をとり、新聞報道について釈明していたらしいのだ。

「あんなニュアンスで言ったんじゃない。弱ったな」。

　伝えられたことが自分の本意ではなかったことを話していたというのだ。

　それにしても、これらの事実から見えてくるのがゴルフ用品業界の厳しい現実、そして、関係者に取材してみるとますます浮かび上がってくるのは契約の一極集中現象だ。

「売れるプロに契約が集中し、露出度の少ないプロは淘汰されていく」というもの。

　横尾の契約切れについても、ブリヂストンスポーツでは、「米ツアーでいろいろなクラブを使ってみたいというプロの意向で、クラブ契約のみフリーになりました。こちらから（契約を切ったりすること）はあり得ません」（同社・広報）と説明するが、それに対し、周囲からは様々な声が聞こえてくる。

「あれじゃ、伊沢、丸山の二枚看板で、ほかには冷たいのがミエミエ」「横尾としては自分は米ツアーで頑張っている自負があるからおもしろくなかったはず」など、水面下では憶測の声が飛び交っている。確かに同社も不景気の煽りをまったく受けていないはずもなく、台所事情を考えれば当然といえなくもない。

　片山の場合も「（同じダンロップと契約している）後進の星野英正よりも安いなんて」と漏らしたとも伝えられるが、たしかに昨年の全米プロで4位に入るなど、ここ2、3年の活躍をみるとその気持ちはもっともだろう。しかし、ダンロップとて台所事情は同じ。そうそう景気のいい契約ばかりしていられないというのが現状なのだろう。その点、伊沢は例外中の例外だが、それこそ日本ゴルフ界の第一人者としてそこに一極集中した結果といえる。

　強気の片山もこのあたりの事情を考えて、一方的な喧嘩別れを避けようと釈明の電話をしたのかもしれないが、実際にこの2月で切れる契約に関し、1回目の交渉で提示された額は星野より安かったわけで、このあたりのしこりは残るはずだ。3月の日本ツアー開幕、そして何より4月のマスターズまでに使用クラブがスンナリ決まるかどうかも心配のタネである。

　また、用品メーカーとの契約ではないが、所属先ソフトバンクとの3年の大型契約（年間1億5000万円）を2年で打ち切られた丸山茂樹の例を出すまでもなく、世界中のプロゴルファーに吹く風は厳しい。

　そんな中、ただひとりタイガー・ウッズだけは常に景気のいい話の真っ只中にいることでもわかる通り、ビッグマネーはますます一極集中型に。日本でのそれが今は伊沢にあることを証明して見せた今オフの契約騒動の悲喜こもごもである。