週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。
内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。

　そのゴルフ場はトム・ワトソンの設計監修で、造成時から話題を呼び、平成7年に開場した栃木県の八洲カントリークラブ。同CCは昨年7月に経営会社・（株）栃木冨士工が民事再生法を申請している。

　その債権者に対する再生計画案がこのほどまとまり、2月12日に説明会を開催、翌13日に債権者に送付し、25日には東京地裁に提出された。

　その計画案の中心となるのがやはりスポンサーの存在。

「スポンサーによる融資を受けることで、土地・建物の抵当権の抹消や、債権者への弁済の原資にあてることになります。これまで複数の候補といろいろな条件について交渉した結果、市川金次郎氏となったわけです」（八洲CC・亀山孝美支配人）

　条件を煮つめた中で、合意に至ったのがたまたま『個人』である市川金次郎氏だっただけだというのだ。

　八洲CCの再生計画案で重視したのは会員の保護。

「プレー権を確保することが第一。会員権の譲渡を認めるとか、追加拠出金などがないことも条件としました」（亀山支配人）

　再生条件では、一般債権者は元本の99.5パーセントカット、会員は退会すると預託金の98パーセントカットで2パーセントを返済し、残留する会員の預託金は99パーセントがカットになる。残留する会員の1パーセントの預託金は償還期限が再生計画の認可決定確定後10年経過後となっているのですぐというわけではないが、一般債権者の0.5パーセント分と退会会員の2パーセント分の弁済にスポンサーの資金が必要となる。

　ちなみに、この計画案通りとなると、市川氏の出資・融資額は6億6000万円ほど。

「民事再生法ですから、最終的には債権者集会の議決となりますので、そこで過半数の了承を得られれば」（亀山支配人）

　その債権者集会は4月17日に開かれるが、そこで議決されれば、いよいよ個人としての市川氏の出番となる。

　この市川金次郎氏、実はゴルフ界では有名な人物。美里GCやチェックメイトCCなど既設12コースを経営する市川造園グループの総帥である。だから、ゴルフ場の再生のスポンサーに名乗りをあげるのは不思議なことではない。ただ、それが同グループではなく、個人とはどういうこと……？

「私は市川グループでは現在、会長ですが、株はまったく保有していませんし、経営の面では退任しています。でも、私はもう少し仕事がしたいのです。ところが今の社長は、私の長男ですが、現在の経営基盤を固めていく方針で、事業拡大には反対で手を出そうとはしません。だから私個人で名乗りをあげたのです。それに、再生計画案でも現在の八洲CCの社員は引き続き雇用するとなっているうえ、社長から市川造園グループのスタッフは誰も引き抜かないと約束させられていますから、そういう意味でも私個人がスポンサーとなって、再生に力を注いでいきます」（市川金次郎氏）

　同氏は平成4年、株式の譲渡に伴う所得などで長者番付にも載った人物。その資金を活かして新事業を始めるようだ。

　市川氏は日本緑化土木勤務後に独立、造園業からゴルフ場の造成工事や経営に進出した事業家。会員募集では廉価な額で多数の会員を集めるというスタイルで、これまで批判も少なくなかった。今回の行動は、さながら自分が育てたグループからの独立というようにも見える。

「私もいろいろ言われてきましたが、もう少しゴルフ界で一生懸命働きたいのです。今の夢は“ゴルフ場の再生屋”となれれば、と。資金に限りはありますが、その範囲内でこれからもこうした再生計画に協力していきたいですね」（市川氏）

　八洲CCは債権者集会が目前に迫っているが、それに続くのが宮城県のマグノリアカントリークラブ。平成元年開場のコースだが、3月20日に民事再生法の適用を申請している。

　そのスポンサーも、やはり市川金次郎氏の新会社。市川氏は市川造園グループの休眠会社を自分名義の新会社として登記し直し、新しい“再生屋”としての仕事に取り組んでいる。

　大正14年生れの市川氏、お若いとはいえない年齢ながら、事業家の血は不況の中でたぎっているようである。