PGA TOUR COLUMN3

PGAツアーとLIV統合
今後の3つの重要ポイント
PGA TOUR
COLUMN

注目されるLIVゴルフの今後(撮影/アンディー和田)(撮影/アンディー和田)
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今後どうなる?
PGAツアーとLIV統合で
注目されている
3つの重要ポイント​

昨年6月にスタートした新しいゴルフ組織「LIV ゴルフ」とPGAツアーが統一に向けた合意を発表したのは今年6月6日。ゴルフファンや関係者だけではなく、多くのスポーツファンやメディアが今後の行方に注目していただけに、このニュースは衝撃的だった。

LIVゴルフリーグの権利を持つサウジアラビア政府系ファンドのPIF(パブリック・インベストメント・ファンド)と対立関係にあり、係争中だったPGAツアーとDPワールド(欧州)ツアーが共同で新たな団体を設立。ただし、3つのツアーが今後、どのように進んでいくのか、現時点で詳細は全く発表されておらず、当事者の選手たちの多くは戸惑いを見せ、コメントを避けている主力選手も多い。

詳細不透明の骨組みのみという「緊急電撃統合発表」の背景には、これまで水面下で行われていた密会が目撃者によってSNSリーク(漏れ)されるのを懸念したためとされる。PGAツアーのコミッショナー、ジェイ・モナハン氏、PGAツアー政策委員(ポリシーボード)のジミー・ダン氏とエド・ハーリヒー氏らがPIF総裁のヤシル・アルルマヤン氏らとニューヨークの超プライベートクラブ「ディープデール」やイタリア・ベニスで密会していたことが明らかになっている。

昨年11月から続いていたPGAツアーとLIVゴルフの訴訟が長期化するという大方の専門家予想の中で、PGAツアーはすでに訴訟・弁護団費用として5000万ドル(約70億円)を支出し、今後の状況次第では追加費用としてさらに2倍の費用が必要になると見込まれていた。

今回の統合でPGAツアーだけでなく、DPワールドツアーも含め全ての訴訟は取り下げ終結となるので、PGAツアー側にとって統合の決断は資金的に考慮すると非常にメリットがあるものだったようだ。

さて、ゴルフファンにとっての関心は、今後どのように男子プロゴルフ界がグローバルに変わっていくか、という点。出場資格を持つツアー選手たちもまだ詳細を知らされていない中、メディアや選手代理人、用具メーカーに話を聞き、さまざまな憶測や予想、噂を耳にした。私はこれまでLIVリーグの米国開催の2試合(シカゴとツーソン)で現地取材、LIVツアー選手にも話を聞いている。今回の統合で注目されている3つの重要ポイントを紹介しよう。

LIVゴルフに移籍した選手はいつ
PGAツアー復帰となるのか?

8月「グリーンブライアー」でLIV初優勝を果たしたデシャンボー(Eakin Howard/Getty Images)

ゴルフファンという視点で考えると一番気になるのは、LIVゴルフに移籍したメジャーチャンピオンたちがいつからPGAツアー競技に復帰するのか、だろう。2023年「全米プロ」を制覇し、メジャー通算5勝のブルックス・ケプカやゴルフの聖地セントアンドリュースで開催された2022年「全英オープン」を制したキャメロン・スミス(オーストラリア)、他にもダスティン・ジョンソンやブライソン・デシャンボーら現役バリバリの選手たちがPGAツアーで戦う姿を見ることができないのを残念がっているファンは多い。

これまでの報道やゴルフ関係者の話を聞いていると、LIVゴルフの選手のPGAツアー競技出場は2025年以降になるだろうという見方が強い。すでに2024年のPGAツアースケジュールや、高額賞金大会のシグネチュアー競技の出場資格(松山英樹も獲得)が発表されているので今後変更となると現行のツアー選手からの強い反発は必至。加えて巨額の契約金を受け取ってPGAツアーを離れた選手たちが金銭的なペナルティーなしで復帰できるとなると、移籍金を断ってPGAツアーに残った選手から不満の意見も出てくるとみられるからだ。

早急に変わると予想されているのはLIVゴルフ競技への世界ランキングポイント加算だ。LIVに移籍した選手は世界ランクポイント獲得の機会がめっきり減ってしまったため、急激にランクダウンしている。LIVゴルフの試合形式(3日間54ホール予選落ちなし等)に多少の変更が求められる可能性があるが、PGAツアーやDPワールドツアー統合でサポートを受けられると、LIVに世界ランクポイントが与えられるようになる日は近いだろう。

またPGAツアーが関与していない4大メジャー競技ではLIVゴルフの個人成績のランキング上位者が出場できる新規カテゴリーも加わる可能性が高いという噂も多く聞かれた。

そんな中、これまで各方面から批判、バッシングを受けているフィル・ミケルソンやリー・ウエストウッド(イングランド)、セルヒオ・ガルシア(スペイン)などはLIVゴルフ競技が続けられる限り、ツアーに戻る機会を与えられても復帰しないのではないか、という憶測も飛んでいる。

ゴルフ界の大革命はまだまだこれから来る

今後の米男子ツアー競技の運営が大きく変わるとなると長期的にはさまざまな影響が出てくるのは必至とみられている。PGAツアーは「非課税・非営利団体」だ。他の北米スポーツ団体では MLBやNFLなどが同じ非営利団体として活動していたが、MLBは2007年、NFLは2015年に「営利団体」に変更して現在に至っている。営利団体にすることで納税の義務が発生するとともに経営責任者、上級管理職の報酬を発表する必要がないという。

今回3つの団体で設立されるゴルフ界の新たな団体は「営利団体」になると発表されており、今後PGAツアーが他のスポーツリーグが変更したように「非営利団体」を手放さざる状況になるのではと懸念する関係者は多い。そうなると、長年続いていた全米各地で開催され、チャリティー団体に多額の寄付をしていた試合のファウンデーションを大幅に変更する必要が出てきて、これまでのような地域密着型の試合運営は危機に見舞われる。

これまで長期間トーナメント開催されていた場所や冠スポンサーの大幅変更、ツアー選手自身が行ってきていたチャリティー基金変更といった状況も出てくるだろう。

コミッショナー変更はあるのか?

PGAツアーコミッショナーのジェイ・モナハン氏
(Jared C. Tilton/Getty Images)

現行のPGAツアーは1969年に全米ゴルフ協会から独立して設立された団体。ジェイ・モナハン氏が歴代4人目のコミッショナーに就任したのは2017年。現在、PGAツアーポリシーボードは6人のツアー選手を含む12人で構成されている。

7月には10年以上委員として関わってきたランドル・スティーブンソン氏が辞任、8月にはタイガー・ウッズが任命されるなど動きを見せているが、今回の統合でモナハン氏が新設団体の責任者としてさらなる報酬や決断力を持つことに大きな不満を持っているツアー選手は多い。今後の動き次第ではコミッショナーが変わる可能性があるのではないか、という見方が強いのは事実だ。

選手会ミーティングで暴言を吐く選手がいたり、ツアー競技の記者会見では世界ランク上位選手に対してモナハン氏を支持するのか?という質問も出てきている。モナハン氏は体調不良を理由にしばらくの間、業務から離れていたが、幸いにも無事に復帰を果たしている。

6月の統合発表時には多くのバッシングを受ける形になってしまったコミッショナーだったが、現在はジョン・ラーム(スペイン)やロリー・マキロイ(北アイルランド)の支持を受けるなど年内の「解任劇」の心配はない様子。しかし、今後の進展次第では状況が変わる可能性はもちろんある。

また、政策委員会に加わったウッズからどのようなコメントが出てくるのか? 現時点では自らがホストを務める「ヒーロー・ワールドチャレンジ」(11月/バハマ)の記者会見で何らかのコメントが出てくるはずだ。

統合発表はされたものの、今後、実現するかどうかはわからないと指摘する報道メディアも多い。7月には米国上院議会の聴聞会が行われていて期限は今年の年末。年末に正式合意に至らない場合は期限延長の選択肢もあるということだが、全くの白紙状況に戻るということはないだろう。ゴルフ界がどのように変わっていくのか、またあっと驚くような発表があるのか。今後も目が離せない。

アンディー和田

アンディー和田

1968年生まれ。米国在住のゴルフジャーナリスト。米アリゾナ大卒業後、プロゴルファーとして世界を転戦。
米ツアーで青木功や中嶋常幸らのキャディ経験がある。ジャンルを問わず、幅広くゴルフに精通し、トーナメント解説やアナリストとして活躍。近年はジュニアゴルファーの指導や育成にも力を注ぐ。