
マスターズのチケットは、世界で最も入手困難といわれている。しかし会場近くには、意外に多くのダフ屋が出没している。とはいえ警察の取り締まりが厳しいので、彼らもおおっぴらな営業行為は控えている。では、どうやって客に近づくのか?
実は、彼らの多くはダフ屋とは逆の立場を装っている。つまり、チケットがなくて困っているゴルフファンのような顔をして、「チケットを売ってください!」という看板を手に、声を掛けてくるのである。
そんなダフ屋たちは家族連れだったり、若いカップルだったり。ある意味あっけらかんと明るいのは、やはりアメリカ南部だからかもしれない。相場は、練習日から予選ラウンド、さらに決勝に行くにしたがって、うなぎのぼりに上がっていく。
そんなチケットの一枚を手に、会場入りを目論んだ私の友達が、とんでもない目にあった。ゲートの機械にチケットをかざしたところ、ピーッという警報が鳴り、チェックしていた係員に、「このチケットは盗難届けが出ているぞ!」と鋭い目つきでにらまれてしまったのである。
どこかの誰かがチケットを盗み、それをダフ屋に売って一儲けした。そのいわくつきの一枚を、友達は手にしていたというわけだ。チケットには1枚1枚バーコードが付いているので、届けが出ていれば、こんな風にゲートで見つかってしまうことになる。
そのまま逮捕されるのかと、縮み上がった友達だったが、追い返されただけですんだのは不幸中の幸い。とはいえ、せっかくコースの入り口まで来て、その中に一歩も入れないというのは、ゴルフファンにとっては、残酷きわまりない拷問のようなもの。
毎年、オーガスタ詣でをするツワモノも
"お祭り"の楽しみ方は人それぞれ
というわけで、彼はそのチケットを購入したダフ屋のもとに戻り、別のチケットと交換してもらい、再びコースにとんぼ返り。
今度は係員に止められることもなく、ようやくゲートを無事通過して、憧れのオーガスタナショナルに足を踏み入れることができたのだが……。4月とはいえかなりの暑さの中を行ったり来たりして汗みずくになり、およそ半日を費やしてしまったというしだい。
そんな、しなくてもいい苦労を避けるためには、やはり正規のルートでチケットを入手するに限るのである。

「千里の道も第三章」で、坂本遼のキャディ・田所稔が
初めてオーガスタを訪れたシーン(単行本第20巻に収録)
たとえば、マスターズ観戦ツアーというものが、旅行会社などで提案されている。大概は、観戦と近隣コースでのラウンドがパッケージになっている。予算はおおよそ100万円前後。
そんな大金を払って、行く人がいるのかという気もするが、なかなかどうして。ほとんど毎年のようにオーガスタ詣でをしているというツワモノも、中にはいる。
たとえば、アダム・スコットの追っかけをしている中高年女性ファン。彼女は優勝争いなんかに興味はない。ただひたすら「アダムちゃん」のラウンドについて歩き、「もう、パットが全然打ち切れてへんやないの!」と、レッスンさえしかねない勢いなのである。
また、最終日最終グリーンのどのあたりで観戦していればテレビに映るのかを熟知している男性ファンがいて、空港からホテルに向かうバスの中から、そのレクチャーが始まったりする。
そんな熱狂的な人々が、チケットを握りしめて世界各地から訪れるのだから、マスターズウィークのオーガスタは、単なるゴルフトーナメントというより、世界規模のお祭りのように華やかに盛り上がるのである。

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