Airi’s Voice

プロゴルファー斉藤愛璃 成長への歩み

第2回 コーチが語る斉藤愛璃

斉藤愛璃|ティーチングプロ・桜井大輔さん

2010年の春先から斉藤愛璃のコーチを務めている、ティーチングプロの桜井大輔さん。レッスンを始めてから2年後の女子ツアー開幕戦で飛び込んできた朗報を聞き、「正直、びっくりしましたね」というのが率直な印象だったという。「もちろん優勝に向かってはレッスンを続けていましたが、あの時はまったく優勝のことは思っていませんでした」。桜井さんにとっては、教え子の“予感なき”ツアー初優勝だった。

もちろん、この2年間で斉藤は着実な成長を続けていた。2年前に出会った当時の印象を、桜井さんは次のように振り返る。「球を打つことは上手いな、というのが第一印象」という一方で、ボールの弾道や総合的なスキルについては「プロのレベルと比べたらまだまだ・・・という感覚。左に行くドライバーに悩んでいたけど、“そうなるような”スイングをしていましたしね」。

まずは、ボールの曲がり幅を減らすことから始まった2人の取り組み。現在のドライバーに関し「飛距離は平均15ヤードほど伸びて、以前までとは(セカンド地点から)見える風景も違う。ボールへの横回転も減って、良くはなっている」と桜井さんも成長を認める。しかし、その現状に満足しているかといえば、決してそうではない。「まだ、直している段階ではあるし、もっとできるはず。ショット、考え方、アプローチ、パター、全てのレベルにおいて。今は、その途中段階にあると思っています」と、厳しい目で言葉を続けた。では、その中で斉藤を初優勝へと導いたものは何だったのか。

「ゴルフは、どこかが良かったら優勝できるものでは無いんです。どこが基礎なのかも分からないのがゴルフ。その中で、ショットやパターが打てなくなった時に、その状態からどうすれば自分のゴルフができるか。その部分に重点を置く練習に切り替えていったので、優勝争いの場面でも少しは自分のプレーができたのかな、とは思います」。

悪くなりかけた時にも、自分のプレーを貫けるための対処法。斉藤も、「一番の課題」として掲げる部分でもある。「1つのミスを、次のホールに繋がらないようにすることが大事。宮里藍選手のように、常に前向きに1打1打に取り組めるように意識はしています。“自分はこうなる癖があるから、こういう気持ちで臨む”というようなことを、ノートなどに書き留めて決めています。その決めごとを1日できたかどうか。それが、一番大事なこと」。単独首位からティオフした最終日、スタートホールでダブルボギーと大きく躓きながらも、「やろうとしている約束事はできていた」(桜井さん)。その後は4つのバーディを奪うなど流れを引き戻し、プレッシャーに屈することなく勝利を掴んでみせた。

斉藤の口から出た“ノート”について話しが触れると、「僕が一番、感心する部分」と桜井さんの表情が緩んだ。「レッスン終了後に彼女がノートを持ってきて、“今日の確認をさせてください”と復習を始めるんです。それが毎回の流れでした。ノートにメモをとりながら、多いときは1時間以上。復習から始まって、次はどうやって練習をしていけばいいか、毎日どのようなドリルをすればいいか、復習や確認したことを練習でどう活かせていけるか。そういう取り組みの姿勢は、他の子には無かった」。

斉藤自身は「自分は、物忘れが激しいので・・・」と苦笑いを浮かべるが、もちろん、それだけが理由ではない。「その時々に1つ1つ教わったことの中から新しいものも出てきたりするし、この時に何をしていたのかな・・・と思い出せるように。いざ悪くなった時に、メモしていたことが自分を助けてくれたり、参考になってまた気づくこともたくさんあるので、気がついたことはメモをとるようにしています」。レッスン内容をメモに集約し、余すことなく自らにフィードバックさせること。ツアー初勝利は、そんな地道な努力も実を結んだといえるだろう。

そのような背景もあるのか。「いきなり伸びた、という感覚は僕の中には無い。彼女はコツコツといくタイプですから」と桜井さん。それは、斉藤の練習風景や練習量にも起因している。「毎日のパター練習やトレーニングもそう。何人かと一緒じゃないと長く練習できない子もいますが、彼女は1人でもずっと集中して練習を続けられるタイプ。夜に練習場を見に行っても、22時ぐらいまで練習をしている時もあるし、ツアー期間中でも21時くらいに電話が鳴る時もあります。夜もいろいろと考えているんでしょうね」。

練習量については、斉藤自身も「練習量だけは負けない、という意気込みだけで臨んでいるので、練習はしっかりとしている」と確固たる自負を持っている。「全部が全部結びつくわけではないけれど、一生懸命努力することで着実に成長していっているな、ということは、自分の中で実感はしています」。決してポテンシャルだけではない。毎日コツコツと重ねる努力の結晶が、斉藤愛璃というゴルファーを形成している。「まだ“伸びしろ”はたくさんある。これから、いくらでも伸びると思います。優勝してから成績は出たり出なかったりを繰り返していますが、トータルレベルは今の方がすごく高くなっている。もっと上に行くことが彼女の目標だし、これから2、3年をかけて、それを支えてゆくのが僕らの目標。どこまでいけるかが楽しみです」。桜井さんは、淀みなく将来への期待を言葉にこめた。

■ 桜井大輔 ■
ティーチングプロ
<経歴>
高校、大学とゴルフ部に所属し、大学卒業後にゴルフ留学のため渡米。約10年間に渡ってPGAツアーやスクールなどを巡り見地を広め、ロサンゼルスのエンジェルスナショナル・ゴルフクラブや一般の練習場にてレッスンを行いティーチングのノウハウを学んだ。帰国後は、多くの男女ツアープロのコーチを担当している。

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