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杉ちゃんのコース解説

COURSE

男子ゴルフの夏を彩るSansan KBCオーガスタゴルフトーナメントの会場、
芥屋ゴルフ俱楽部は2021年大会を前にコースを改造。
2年間をかけて、バンカーの改修をはじめとしたリノベーションが
全ホールで施されました。
かつて日米ツアーで丸山茂樹選手、宮里優作選手らをサポートし、
現在はテレビ中継のリポーターとしても活躍するプロキャディ、
杉澤伸章さんが注目ホールをピックアップして解説します。

芥屋ゴルフ倶楽部

KEYA GOLF CLUB

芥屋ゴルフ倶楽部コース全体図

Hole.1Par4 420yd

改造バンカーが待つ
名刺代わりのスタートホール

ティイングエリアからグリーンの手前に構える改修されたばかりのバンカーが目に入ります。欧米のコースのようにアゴが反りあがり、砂の壁のような立体感あるデザインになったこと、周辺がギザギザにカットされたことで景観の美しさと存在感がアップしました。

打ち下ろしのストレートホールで第1打は左サイドのOBゾーンを警戒しフェアウェイウッドを握る選手もいるでしょう。第2打のエリアは左足下がり、つま先上がりになり、球が自然と左に曲がるライになります。

深さがたっぷりある左のバンカーは、グリーンの手前をえぐるように設計されたことで視覚的な圧力を生みます。そこでドローボールの出やすい、ショットが左に流れやすいフェアウェイ形状ですから戦略性がより増すわけです。砂の壁で跳ね返されたボールは勢いがついて手前に戻り、距離の長い、打ち上げのバンカーショットを強いられるためパーセーブが難しくなります。

バンカーのインパクトが増したことで、グリーンは形状が変わらなくとも狙えるエリアが狭く感じられます。しかしトッププロであればシャープな見た目は狙いが定まり、ミドルアイアン以下の番手で打てれば積極的に攻めようと思えるもの。アグレッシブになるからこそ、ミスも出やすい。スタートホールですからパーで問題ありませんが、バーディで勢いづくか、ボギーでつまずくか、その日のラウンドを大きく左右する新装・芥屋の名刺代わりのつくりになりました。

Hole.4Par4 449yd

パーセーブの鍵は
右バンカーと左手前の奈落の底

左右のフェアウェイバンカーの位置と形状が変更されました。打ち上げのパー4で、第1打の警戒ポイントはアゴが高い右サイドのバンカー。280ydのキャリーを出せずに、捕まってしまうとパーオンの可能性が低くなります。残り190yd前後のショットを5アイアン、6アイアンで高さを出すのは至難の業です。

対して300yd地点にある左のバンカーは「絶対にダメ」というほどではありません。アゴはそれほど高くなく、残り距離を考えても8アイアン、9アイアンを握ることができます。また、このバンカーが強調されたことで、ティイングエリアからのターゲットが明確になりました。以前は左サイドに流れるホール形状が“ぼんやり”していましたが、戦略性がはっきりしたように感じられます。

グリーンの周辺は特徴的な形状からエリアによって難易度が大きく変わります。安全なのは右サイド、中でも手前よりも奥からのほうが寄せやすそうです。最も注意すべきは左手前の“奈落の底”のようなコレクションエリア。ここからは自分の身長より高い打ち上げのアプローチが必要になります。登り切らなかったショットは強烈な傾斜で転がり落ち、ボールはフェアウェイ上にあっても、ラフに寄りかかって止まります。グリーン面が見えず、インパクトでクラブがまず芝とコンタクトするため距離感が難しい。とくに左奥にピンが立つ日はグリーン上で使える縦幅が短くなることもあり、このエリアはどうにかして避けるべきです。

Hole.9Par5 501yd

距離が伸びたパー5。
警戒すべきは、右か、左か

ティイングエリアが8番グリーンの横に新たに設けられ、距離が約30yd伸びました。以前はもっとも易しいホールの1つで、プロからすればバーディ必須ともいえるパー5でしたが、これからはそうも言っていられません。

左サイドにあった1つのフェアウェイバンカーが改修され3つになりました。最も手前のバンカーには220ydほどのショットで入ります。3つ目を越えるには290ydのキャリーが必要で、中でもアゴが高く設計されている2つ目の小さなバンカーにつかまってしまうとショートアイアンでのレイアップを強いられますから、是非とも避けたいところです。

ただし、トッププロであれば左のバンカー群よりも、右サイドが気になるのではないでしょうか。ホール全体が右に向かって下っており、とくにフェードボールではフェアウェイを転がって中央から横に逸れていきます。そうすると第2打でグリーンへの視界を遮る、右からせり出ている高い木々が気になり、トラブルになる恐れが生まれるでしょう。

実はこのホールはフェアウェイが広くとられているほうが、つまり右サイドのラフのエリアが狭いほうが、選手にとっては厄介になる可能性があるのです。第1打はフェアウェイバンカーに惑わされず、左を逃げずに思い切ってスイングしてほしく思います。

グリーン手前のバンカーも大きく、そしてグリーンに近づくように設計しなおされました。形状が“欧米使用”になったことがどのエリアからもうかがえます。

Hole.12Par3 184yd

盛り上がるDJホール
バーディとボギーが紙一重に

2019年大会の最終日は184yd設定のパー3。わずかに打ち上げているため、無風であれば5アイアン、6アイアンを持つ選手が多くなります。ティイングエリアの芝が逆目になっていることもあり、注意が必要です。

もともとグリーンの縦幅が短く、距離感を問われるホールでした。今回の改修で左サイドのバンカーがなくなり、芝を敷き詰めて高低差のある砲台の印象が強くなりました。プロにとってはバンカーのほうがイージーだったはず。左手前にこぼれたボールは強い傾斜で押し戻され、グリーンから遠ざかっていきます。4番ホールと同じように、ボールは芝に寄りかかるように止まるためチッピングが簡単ではありません。左奥に外した場合も難しいラフからの寄せになりそうです。

右手前はバンカーよりも、左足下がりになる周辺エリアのほうがフェアウェイであってもピンに近づける技術を求められます。グリーンを外した場合、見た目以上に難しさが詰まったホールです。

今年の大会中はこのホールにDJを迎え、場内を盛り上げる演出が施されます。そうであれば、選手がミドルアイアンからショートアイアンでピンを狙えるような距離設定にすると、エキサイティングになるはず。積極的な攻撃が成功した選手にはバーディチャンスが訪れ、惜しくも失敗した選手がボギーのピンチを迎えるメリハリのあるセッティングが大会を面白くしそうです。日によっては、前方のティイングエリアを使用する手もあるでしょう。

Hole.16Par4 469yd

芥屋の最難関
グリーン右手前バンカーを
恐れるな

ここ何年も最難関ホールとして選手を待ち構える左ドッグレッグホール。2019年大会最終日、バーディを記録したのは2人だけでした。第1打、第2打ともにロングゲームの精度の高さを問われます。ティショットはドローヒッター有利で、右サイドのバンカーをターゲットに右から左に曲げていくのが定石です。フェードヒッターはティイングエリアの左前方にある木々に当たる恐れがあり、3Wを選択してドローをかける選手もいます。

2打目のライは強烈なつま先上がり、左へのミスを誘発するフェアウェイの傾斜です。グリーン左サイドは、奥へのミスショットが隣のホールまで到達してしまう可能性も。ですから、グリーン右手前に構える深いバンカーを恐れない勇気が問われます。このバンカーからのショットは、プロにとっては大きな問題ではありません。むしろそれを嫌がってセカンドで長い番手を持ち、左奥に突っ込んでしまうことのほうが、よっぽどトラブルに繋がりやすくなります。ちなみに、バンカーのすぐ奥のグリーンは手前に下る傾斜で、ボールも止まりやすくなっています。

最難関ホールですから、パーは悪いスコアではありません。ピンがどこに立つ日も、グリーンの手前エッジから中央10ydまでにきっちりキャリーさせて、バーディパットを打ちたい。結果的に下りのパットを打つことになっても、2打目がグリーンに止まっていることに、ギャラリーの皆さんには拍手を送ってもらいたいと思います。

Hole.18Par5 556yd

ドラマチックな最終ホール
バーディ、イーグルを

スコアを伸ばしあう展開になるKBCオーガスタは、やはりバーディ、イーグルでのフィニッシュこそ締めくくりにふさわしいものです。2019年の比嘉一貴選手はこの最終ホールで4日間通算6アンダーをマークし初優勝を飾りました。

第1打を右サイドにミスする選手が多いのは、左サイドが崖下のトラブルを招く可能性があること、そしてティイングエリアがフェアウェイの右を向いていることにあります。右ラフには種類の違う芝が混在しており、根が強く粘り気が多いバミューダ系のラフからは男子プロでも前方に進めるのが精いっぱい。レイアップする場合は、改造された中央で口を開ける巨大なバンカーに入らないよう、下っているフェアウェイ上でのランを計算しなくてはなりません。一方で色が薄い芝のエリアからなら2オンが可能なため、まずはその見極めが重要です。

グリーンは中央を縦断する尾根が走る、全体傾斜が左右に分かれたグリーン。この場合はピンが立つショートサイド側から攻めるのが鉄則です。とくに左手前のピンに対しては、右から尾根を越えて寄せるのは大変。この場合は左手前のバンカーもプロであればセーフティゾーンになるはずでしょう。

大会最終日は例年グリーンの右奥にカップが切られます。2オンを狙う場合は200yd前後のショットになりますが、センターにキャリーさせて右に流れる傾斜を利用します。ラインを伝ってピンに近づいていくボールが真夏の芥屋に大歓声を呼び込みます。

杉澤伸章

杉澤伸章Nobuaki Sugisawa

1975年、愛知県生まれ。2000年代にPGAツアーに参戦した丸山茂樹の専属キャディとして米国を渡り歩く。日本帰国後は宮里優作の悲願のツアー初勝利を含め、多くの日本人プロをサポート。現在はプロキャディとして活躍する傍ら、テレビ中継の実況・解説、ラウンドリポーターも務める。愛称は「杉ちゃん」