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プロフェッショナルの矜持
松山英樹独占インタビュー

世界最高峰といわれる米国PGAツアーを主戦場として活躍する松山英樹プロ。2021年「マスターズ」を制して日本人初の偉業を成し遂げるなどツアー8勝を誇る。世界の第一線で成功をおさめて、なおも挑戦は続く。2023年を振り返りつつ、マスターズでの秘話も含めてここまで向き合ってきた不安と緊張、松山プロが考えるプロフェッショナルなど、大いに語った。

苦しい時間も長かった1年

——2023年を振り返ってみて
何もいいところがなかったですね。優勝もできなかったですし、メジャーでトップ10にも入れず、(上位30人による)ファイナルの「ツアーチャンピオンシップ」にも出られませんでした。

——8月にPGAツアーを終えて
なかなかいいところがなかったシーズンでしたけど、その分、この4カ月間で休めたので、(2024年)1月からに向けていい準備ができているかなと思います。

——10、11月は日本開催の試合に
4年ぶりに日本ツアーに出ましたけど、知らない子たちばっかりだったので、逆に緊張してしまって。(先輩として)“圧”なんてかけてないですよ、そんな人間じゃないですから(笑)

「緊張」には2種類ある

——ケガで思うようなゴルフができない不安も
普段だったら、ゴルフだけの不安は珍しくないのですが、今年に関しては首の状態が悪かったので、体調面からの不安でゴルフに集中できなかったのはありますね。

——「不安」は「緊張」につながっていく
自分の中で試合の緊張感は2つ、いい緊張感と悪い緊張感があります。いい緊張感の時はパフォーマンスもすごく上がると思うのですが、悪い時は全てがマイナスに入ってしまう。初日の1番からすごく緊張してしまって、1日がすぐに終わってしまうような感覚です。

——今年はその「悪い緊張感」が多かった?
状態が状態なので、初日はリラックスして、あまり気にせずできていました。それが2日目、3日目になって優勝争いに近いポジションにいると、不安が勝って悪い緊張感に変わってしまって。(勝負どころで)うまくパフォーマンスが出せない感じはありました。

「不安」を乗り越えるために

——世界一のPGAツアーで出場数は244試合に。緊張の度合いは今も変わらない?
最初の頃に比べると、出るだけの緊張感はなくなってきました。試合の期間中だけですが、僕は普段から同じ生活をすることを心掛けています。朝、スタートの何時間前に起きて何をするか。そこだけは変えないように。それでも、優勝争いの緊張感はずっと同じ感じです。

——「不安」との向き合い方で意識していることは
立ち向かっていくことはすごく大事だと思います。それでも結局、不安を消すことはできません。練習で紛らわせるか、普段の生活で何かを見てリラックスするか、そういうところしかないのかなと思っています。

——「弱点」をつぶすか「強み」を伸ばすか、有効なのは
どちらも大事です。僕は自分でパターが下手だと思っていますが、それを突き詰めていかなければ、入らないまま。ショットもランキングでは上位であっても、自分より上がいます。そこに勝っていかなければ、優勝もできません。(長所も短所も)突き詰めていくことが絶対に大事。プロゴルファーである以上、その作業に終わりはないでしょうね。

「別世界」マスターズ優勝秘話

——2021年「マスターズ」は重圧との闘い
ちょっと別世界でした。(4打差の首位で)3日目を終わった瞬間から、すごいプレッシャー。普段なら次の日のイメージをして寝ますが、18ホールが終わる前に6番ホールあたりで逆に寝てしまって。朝も9時に起きる予定が6時くらいで目が覚めました。もう1回寝ようとしても、6番から前の日の続きをやろうとしても、緊張がとれずに大変でした。

——5打のリードで後半に入ってからは
逆に嫌でしたよ。2011年の最終日にロリー(マキロイ)が(4打差から)負けたのも、(1996年に)6打差をつけていたグレッグ・ノーマンが負けたのも知っていましたから。むしろ、嫌な方ばかりを考えてしまって。18番のティショットを打ち終わるまで、手がずっと震えていました。『パター、どうやって打とう?』って(笑)

——長いキャリアでも未知の領域
(緊張を乗り越える)武器は持っているつもりでしたけど、全く通用しなかったです。初めての経験っていうくらい、一日中ずーっと心臓がバクバク。マスターズの週に入って、ショットもパットもアプローチも全部つながるような感じがして、ゴルフ自体の自信はありました。ただ、その緊張に負けそうで。よく勝ったなと思いますね。

「プロフェッショナル」とは

——プロゴルファーを目指した時期は
最初になりたいと思ったのは小学校の5、6年生ですね。職業として選ぼうと思ったのは大学2年生くらいでしょうか。実は小1の時、初めて青木(功)さんにお会いしているのですが、当時はあまり分かっていませんでした(笑)

——アマチュアで出たマスターズが分岐点に
あの時マスターズに出ていなかったら、プロにはなっていたと思いますが、(すぐ)アメリカに行くことはなかったでしょうね。それまで何となく過ごしていた自分が、初めてプロでやりたい、アメリカに行きたいという気持ちに変わるきっかけにはなりました。

——プロとアマチュアの違いはどこに
プロゴルファーという職業として、皆さんに感動とか勇気を与えられるようなプレーをすることが一番だと思っています。そのひとつの形として、マスターズで勝てたことは良かったな、と。僕はしゃべるのが得意ではないので、そういうのも含めて魅せられるようになりたいなと思いますが、なかなか…。どなたか教えてほしいです(笑)

——働く上で大事にしていることは
オンオフをしっかりすることでしょうか。ゴルフをする時、トレーニングをする時は全力でやって、遊ぶ時は遊ぶ。うまく行かない時って、どうしてもダラダラと考えてしまいがちですよね。そういう時こそスパッとゴルフを忘れて、僕が好きなお酒を飲みにいったり。その分、次の日からは切り替えて、またゴルフを突き詰めます。

——最後に2024年に向けた意気込みを
もう、2年近く優勝できていないですからね。(年明けのハワイは)2試合とも相性はそんなに悪くないと感じていますし、どちらかで優勝争いをして、「悪い緊張感」に勝っていけるように。そして、マスターズを含めたメジャー4つのどれかを獲れればいいなと思っています。いまPGAツアーで8勝ですが、20勝くらい目指して頑張りたいです。