週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。
内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。

　女子プロ人気が新たな事件を引き起こしてしまった。舞台となったのは、日米両女子ツアー共催のミズノクラシック2日目。MBS（毎日放送）・CBC・TBS系全国28局ネットで午後2時から放映された生中継は、最終組から4組前の宮里藍のプレーが生で放送できる理想的な時間帯だった。

　これだけなら問題はなかったのだが、大会6連覇のかかるアニカ・ソレンスタムが初日に出遅れ。この日は第1組でプレーしており、しかも猛チャージをかけていたことで、ことがややこしくなった。

　問題となったのは、宮里が16番でバーディを取ったシーン。通算8アンダーとした映像は生だったが、実はこのとき、上田桃子がすでに9アンダーでホールアウトしていたにもかかわらず、映像上ではまだ8アンダーでプレー中。そのため、宮里が首位に並んだように見えてしまった。

　ここで、つじつまを合わせるために、宮里が首位に立ったかのように実況したことが、「現実と違う！」と批判にさらされているのだ。

　わかりやすいように現場での流れを説明しよう。

　8時45分にスタートしたソレンスタムは、放送開始時間にはすでにホールアウト。6バーディ、ノーボギーの66で回り、優勝争いに乱入していた。これを放送に入れない手はない。そこで、生の映像の間に、ソレンスタムのプレーをさしはさむ形で編集された映像がお茶の間に届けられた。

　ここまでなら、通常のゴルフ中継ではごく当たり前のこと。なぜなら、ゴルフという競技の性質上、出場選手（ミズノクラシックでは76人だが、通常の予選ラウンドでは100人以上）のプレー時間は、それぞれずれているからだ。

　つまり≪生中継≫と謳ってはいても、先にプレーした選手のプレーを視聴者に見せようと思えば、当然、録画の映像も流さねばならない。　ところが、この日は、ソレンスタムがあまりに早くホールアウトしてしまったため、視聴者の興味を引こうと、生であるかのようにそのプレーが流された。

　さらに、ソレンスタムの次の組で回った上田も、8アンダー、64の猛攻を見せており、こちらも挿入。そこで起きたのが今回の事態だった。

　ある解説者がこう解説してくれた。「現在のゴルフ中継は、生放送とは名ばかりで編集しまくりなのが現実だ。テクノロジーの進化により、何でもできてしまう。現場にいて、色々な編集をしているうちに、感覚が麻痺し、テクノロジーに流され、逆に遊ばれるているようになりがちだ」。

　この辺りを、MBSではどう考えているのか。柚山康彦広報部長は「生放送が理想ですが、終了時間がハッキリしなかったり、プレー時間の長さなどからゴルフ中継ではなかなか難しい。そんな中、万一、途中で放送が終わってしまっても納得してもらえるだろうということで、せめて2日目は生放送を流したい、というのが現状です。

　また（ゴルフという競技の性質上）すべてをリアルタイム（生）でお届けするのは不可能なので、プレー途中に録画を挟み込む形になる。

　ただ、今回の問題点は、ソレンスタムと宮里の組の時差があり過ぎたのに、両方をなるべく楽しんでもらおう、と欲をかいてしまった点。その映像に対して忠実に実況した結果、事実と違うと言われることになってしまった」と、経緯と反省を口にした。

　その反面、一部で「故意に宮里を首位にした」という点については「宮里選手の映像は生なので、バーディを取るかどうかもわからず、それはあり得ない」（柚山氏）とキッパリ否定している。

　だが、結果的に、視聴者に誤解を招く放送を流してしまい、物議をかもしてしまったのも事実。これに対しては「生と生でないものをもっとはっきりわかる形にしなければいけないでしょう。技術的に長けてきて、それに頼る傾向についても『それは違うだろう』という議論が（局内で）巻き起こっており、できる限りありのままの姿を伝えよう、という方向になっています」とのことだ。

　実際、今回の例だけでなく、他局でも「（演出を）やり過ぎ」と陰口を叩かれる中継が今季ほかもあった。

　女子プロ人気に乗じて視聴率を上げたい気持ちはわかるが、やはりゴルフは「ありのまま」がベスト。今回の事件の当事者はそのことを自覚したようだが、他局にも教訓になればいいのだが……。